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帰厩

              「懐かしの場所、もう一度ここから」



「ライズ、大丈夫?ちょっといいかしら?」
「あぁ、うん。どうかした?」
「コスモスはさっき牧場を出たわよ。」
「そう。元気に厩舎に帰っていってくれて安心したよ。」
「本当に。折れた心が立ち直ってくれてね。ただ…」
「ただ?」
「勘違いでなければ精神面では立ち直ったかもしれないけど身体は立ち直ってないと思うの。」
「え?どうゆう事だ?」
「歩様がバラバラなの。走っているあの子を見たけどあんなんじゃ競争にはならないと思う。」
「何で?!思い過ごしだよ。バラバラの歩様で新馬戦を勝ったって事?あの圧勝劇を。」
「思い過ごしならそうであって欲しいけど…心から一度走る事をやめようとした。忘れようとした。そして忘れた。」
「まさか?!そんな事で忘れるのか?!走る事を!ゴホッゴホッ。」
「ほらほら、体調悪いんだからあまり興奮しないで。思い過ごしかもしれないし、本当にそうでも調教によって戻るかもしれないし。今は信じて待つしかないわよ、あの子の力を信じて…。」
「あぁ…くそっ!何だってアイツの運命はこうも次から次へと…。」
「ライズに比べたらマシでしょ。あの子はまたターフに戻れるんだから。身体に障るしアナタはあまり思い詰めないの。こ れくらい乗り越えてくれるわよ、あの子は。起こしてごめんね。また寝てなさい。」
「あぁ…眠れるかわからないけど…。」
「もう。思い詰めて余計に身体も精神も弱らせていたら種牡馬として機能しなくなるわよ!」
「う…。」
「ぷっ…ははは。そんなに動揺しなくても。あはは。手のかかるのはコスモスだけで十分なんだから。アナタはしっかりしててよね。」
「はいはい。」

 その頃、福田厩舎。
 久しぶりに僕はこの地を踏んだ。長かったような短かったような休み。自分の異変なんて露知らず、ただそんな思いに耽っていた。あ、ヴェールだ。
「コスモス、お帰りなさい。長い休みだったね。心配したよ。」
「ごめん。色々とあって。あ、ラベンダーお母さんから頑張れって言っといてって。」
「お母さん?コスモスのママじゃないのにおかしいよ〜!」
「その事なんだけど…。何から話せばいいかな。実は、僕のママが死んだんだ。」
「えっ?!コスモスおばさんが?!」
「うん…。それであまりにも悲しくて、辛くて。誰も信じられなくなって。それで長い間走るのをやめてた。でもラベンダーお母さんが真実を教えてくれて立ち直らせてくれたんだ。ママがラベンダーお母さんに代わりになって支えてあげてって。ラベンダーお母さんも僕を大事な息子だって言ってくれてね。やっと救われたんだ。」
「そんな事になってたんだね…。じゃあ私とコスモスは兄弟になるんだ。」
「そうだね。あはは。」
「えへへー。じゃあ私がお姉さんね。」
「何でだよぅ。僕がお兄さんだよ!」
「じゃあ、かけっこで決めよ。ヨーイドン!」
「あ、ずるいよ!」

 こうして僕はまた前と同じ日常に戻った。と思っていた。次の日、自分の異変に気付くまでは。

「只今電話に出る事ができません。発信音の後にメッセージをどうぞ。ピー。」
「あ、福田です。お忙しいようですね。コスモスはさっき無事に到着しましたよ。元気そうで安心しました。さっそくヴェールと遊んでいますよ。それで復帰戦ですが追ってみないとまだハッキリとは決められませんが500万下戦ではなくいきなり札幌2歳ステークスに使おうかと思っています。久々でいきなり重賞になるけどあの仔なら大丈夫でしょう。敵は除外だけですよ。まあ、明日、朝一で追ってみて判断してからまた連絡します。では。」

第十三話 「異変」に続く。

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