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入厩

              「新たな出会い、始まりの時」



 それから数日後、牧場に一人のおじさんがやってきた。何度か見た事がある気がするなぁ、あの人。
「やぁ、福田調教師(せんせい)。」
 ミチシタさんが出迎える。
「今年もこの時期やってきましたねぇ。」
「えぇ、毎年わざわざすいませんね。」
「いやいや、いつもうちに入れてくれる、言わばお得意さんですから。」
「信頼してますからね。あはははは。」
「じゃあさっそく見て回りましょうか。今年はあれですよね。コスモスの仔、ライズの全弟。」
「えぇ、それにラベンダーの牝馬も一緒にお願いしたいと。」
「ほぉ、それは嬉しい話だ。そのクラシックの中心になりそうな2頭なんて。でも本当2頭でいいんですか?必要ならもう少しなんとかしますよ。」
「地方にも何頭か入れるし、東にも入れておきたいんで。本音は全て先生に見て頂きたいんですけど、逆にその2頭をしっかり見てほしいとも思うんで。」
「わかりました。おっ、あれだな。」
「えぇ、ラベンダーの仔、サンライトヴェールとコスモスの仔、ラストコスモスです。不思議なもので仲がよいのかいつも一緒にいるんですよ。入厩してからも併せとかにはいいじゃないですかね。」
 と、ふっとお客のおじさんから笑みが消える。
「道下さん…もしかして…。」
「はは…やっぱり感づきますか。多分ご想像の通りです。」
「そうですか…すでに?」
「いや、まだ。だけどね…正式に発表するまでは内密に。」
「わかりました。私は私の仕事をするだけだ。おや?」
 また一人、牧場を訪ねてきていた。それに気付いたおじさんが声をかける。
「安藤君、どうしたんだ?」
「あ、福田調教師(せんせい)調教師(せんせい)こそどうして?」
「今年うちに入る仔を見にね。君は?」
「いや、あの、ライズにもう一度会いたくて…。勝利数が足りなくて引退式もしてもらえない。調教に乗っていなかったから皐月賞以来会ってないですから…。」
「そうかそうか。道下さん、別に構いませんよね?」
「もちろんですよ。ライズも喜ぶでしょう。」
 そういって、僕の近くまできてきたミチシタさん達は移動しようとしていた。と、そこでそのお兄ちゃんと目が合う。
「あの、もしかしてあれ、ライズの弟とかじゃないですか?」
 不意に僕を指差しそう言う。
「あれ、安藤君には言ってないよな?よくわかったな。うちに入るんだよ。」
「だって、ライズにそっくりじゃないですか。何て言うんですか?」
 近づきながらそう聞かれているのが聞こえ、僕が嬉しそうに 「ラストコスモスだよっ!」って答えてあげたけど、通じていないのかミチシタさんに聞いている。
「さすがライズの主戦騎手だな。ラストコスモスと名付けたよ。」
 そこでお兄ちゃんが真剣な顔つきになる。そして、
調教師(せんせい)、そして道下さん。この仔に僕を乗せてもらえませんか?」
「安藤君、どうした?突然。」
「いえ、ライズが叶えられなかった夢、弟のこの仔で代わりに叶えてやりたいんです。ライズの無念を弟のこの仔で…。」
「うーん、ワシはいいが、オーナーの決める事だからなぁ。道下さんどうです?」
「全然構いませんよ。いや、寧ろお願いしよう。ライズが慕っていた騎手ですもの。ライズを皐月賞馬にしてくれたその腕でこの仔も頼むよ。」
「あ、ありがとうございますっ。ライズの為にもミスしないように頑張りますから。」
 そうして僕の方を向き直し、頭をポンと叩いた。そして、
「よろしくな。」
 そう言い、笑って見せた。この人が僕の上に乗る人。お兄ちゃんにも乗っていたみたいだし、心配ないよね。

 そうして、新たに僕に乗る騎手アンドウさんって人と、調教してくれる偉い人のフクダさんって人を知る事になった。2人共これから長い付き合いをしていく関係。仲良くしなくっちゃ。

 そして次の日。
 僕は朝からトレセン入りする為、ヴェールと一緒に運送車に乗せられ牧場を出発。ママに挨拶できなかったのは心残りだけど仕方ないよね。そうして、初めての車に数時間揺られ、無事トレセン入りをした。到着し、車を降りた時、突然不思議な風が僕を包み込んだ。懐かしいような暖かさの風。それが何かを伝えようとしていたなんて考えもしなかった。

第七話 「発走」に続く。

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