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命名

              「念願の名、その意図」



 あれから僕は、以前にも増して走る事を一生懸命するようになった。お兄ちゃんの涙ながらに託してきた夢。それでも絶対とか、自信とかは全然ないんだけどね。

 そうして、走ったり、お兄ちゃんにからかわれたり、ママに弟か妹に取られてしまう前に目一杯甘えたり、そんな事を繰り返しながら季節は巡って、3度目の春を迎えた。僕はもう2歳。夏にはデビュー。となれば、もうすぐ名前がもらえるはず。楽しみだぁ。

 ママは出産の準備、お兄ちゃんは初めての種付けで忙しいみたい。全然会えない。だから最近はほとんどママの友達、サンラベンダーさんとこの子と一緒。頭をぶつけた事件からずっと仲良しなんだ。その子ももうすぐ初めての兄弟誕生、そして名前がもらえる事にワクワクしていた。

「もうすぐ名前で呼び合えるね。」
 僕がそう言うと嬉しそうに
「うん。」
 と答えた。
「やっぱり名前で呼ぶ方がいいよね。なかなか気づいてもらえないし。」
「うんうん。生まれてすぐにつけてくれればいいのにね。ニンゲンってケチだよね。」
 そんな会話が弾む。実際、そんな事真剣には思っていない。ミチシタさんとか、みんな大好きだしね。嬉しくてはしゃいでいるだけなんだ。

 ある日、ミチシタさんが少し真剣な顔立ちでやってきた。そうして、僕を撫でながら言う。
「とうとうお前も本格的にデビューに向けて調教する為にトレセンに入れる事になったぞ。これからはなかなか会えなくなるけど、しっかりな。お兄ちゃんのように、そしてお兄ちゃんを超す気でやってこい。で、お前の名前なんだが…」

 そこまで言って急に黙り込んでしまったミチシタさん。どうしたんだろう。顔も暗い。名前はなしで走れって言われるのかなぁ。なんて考えてしまう。どうしたの?ってミチシタさんの顔をペロっと舐める。すると、はっと我に返り続ける。
「すまんすまん。色々考えたんだけどな、ラストコスモスってどうだ?気にいったか?」

 ラストコスモス。それが意味する事は僕にはわからなかった。ただ、ママと同じコスモスが入っている事が大変嬉しくて、前足を上げて喜んで見せた。
「そうかそうか、喜んでくれてるんだな。コスモス、これからはお前がここの看板馬になってくれよ。」
 そう言ってポンと背中を叩いて出て行った。わーい、ようやく念願の名前がもらえた。

 そうだ、あの子はもうもらえたかな。そう思ってとっとこ探しに行く。すると、向こうも呼びに来ようとしていたみたいですぐに会えた。顔がなんだか嬉しそう。聞かずとも分かった。
「名前もらえたよぉ。サンライトヴェールってつけてくれたんだ。かっこいいでしょ。ヴェールって呼んでくれたらいいよっ!」
「うんっ!僕はラストコスモスだよ。ママと同じコスモスってつくんだ。」
 そう言うとヴェールは少し困惑した顔つきで、
「呼び方困るね。あなたのママもコスモスでしょ?じゃあラストになるのかな。」
「あっ、うーん、ママの前で呼ばれる事はこれからあんまりなくなるし、コスモスでもいいよ。お任せする。」
「じゃあ、コスモスって呼ぶね。そっちの方がいい。」

 そんな会話を交わしているその瞬間、ある事が起こっていたなんて。僕が知るのはまだ先の事だった。

第六話 「入厩」に続く。

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