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冒険

              「新たなる出会い」



「坊やはまだ思い切り走った事なかったわね。」
 目を輝かせて辺りをきょろきょろしていたらママがそう話し掛けてきた。
「うん、ないよ。だってあの中から出た事なかったもんね。」
 やっぱり周りが気になるから、半分聞き流して返事していた。
「じゃあ練習しようか。始めはゆっくりしてあげるからついておいで。」
 と、ママが誘う。ここでやっと僕はママの顔を見て笑顔で返事した。
「危なくないの?」
 って心配して聞いてみたら、
「大丈夫、ママがついているし、そんなにスピードは出さないから。」って。

「うーん。」
 ママと一緒に伸びをして準備運動。そしてママは合図を出すと駆け出した。僕も慣れない足つきでとっとこついていく。 駆け抜ける風が気持ちいい。 ふと、ママを抜いてびっくりさせてやろうと思いついた。 よーし、と力をためて、一気に加速。ママを抜いた。 びっくりしてるか見ようと振り返ってみたら、
「危ない!」
 とっさに叫び声が聞こえた。前からも聞こえた様な気がしたけど。 え?と思って前を向きなおすと、前からも他の馬が突っ込んでくる。 向こうも気付いて同時に急ブレーキ。でも、間に合わず頭をぶつけ合った。

「大丈夫?」
 2頭の母馬に尋ねられた。
「だいじょーぶ。」
 半分涙目でと答える。 ぶつかった相手も同じように答えている。 それにしても、今日は頭をぶつけてばっかりだ。

「何事もなくて良かったわね、コスモス。」
 と、相手の母馬がママに話しかけている。 ママの知り合いなのかなって考えていたら、
「本当に。ラベンダーごめんなさいね。もっと注意していればよかったわ。」
 と、ママも答えている。 後で聞いたんだけれど、その母馬はママの友達でサンラベンダーっていうんだって。 結局ママ達は世間話に入ってしまった。

「いいのよ、こっちも不注意だったしね。」
「ラベンダーの子は女の子?」
「そうよ、コスモスは男の子なのね。前の子も男の子だったわよね。」
「ええ、去年は受胎しなかったから1年開いてるけど。もうすぐデビューするみたいなのよ。」
「私はこの子が始めてだから色々戸惑っちゃって。また色々教えてよね。」



 うーん、終わりそうもない、世間話。最初は黙って聞いていたんだけれど、ふと、ぶつかった子と目が合った。退屈だし恐る恐る話しかけてみた。

「君、名前は?」
 はじめはびっくりしたような表情で黙っていたけど、向こうも恐る恐る答える。
「私はまだ名前ないよ。あなたは?」
「僕もないよ。早く欲しいんだけどね。退屈だよね。」
「うん、ママのお話し長そうだし。さっきはごめんね。」
「んーん、僕のほうこそ。」
 僕達もママみたいに世間話を始めてしまった。初めてのお友達ができて嬉しかったんだ。
「ママを抜いてびっくりさせてやろうと思ってたんだけど、前を注意してなかった。別の意味でママをびっくりさせちゃったよ。」
 って僕が言うと、突然目の前にいる女の子は黙り込んでしまった。

 そして、笑い出した。 僕は、何かおかしな事言ったのかと、戸惑っていた。
「あははは、ごめんね。私も同じ事しようとしててぶつかったんだ。まさか、同じ事してたなんて。」
 それを聞いて、僕も思わず笑ってしまった。
「あはは、本当に奇遇だね。ねぇ、僕とお友達にならない?」
「うん、いいわよ。初めてのお友達ができた。」
 って言いながら、ニコッと笑って見せてくれた。

 それから、ママ達と、僕達はそれぞれ夕方までおしゃべりを続けていた。 馬房へ戻っていく時にママがそっと、 「かわいいお友達ができてよかったわね。」
 って言ってきたので、
「うんっ。」
 って笑顔で答えた。

 その日の夜、まだ会った事のない兄、サンライズお兄ちゃんのデビュー日程が大方決まったとの連絡が入ったそうだ。

第三話 「期待」に続く。

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